十二歳
とにかく学校には行きたくない。規則正しく決められたように勉強するのも、みんなと一緒に何かにやるのも、本当に苦痛だった。
「やりたくもないことを、なぜやらなきゃいけないの?」
「やりたいことは、なぜできないの?」
いつもそんなことばかり考えていた。とはいえ、学校にいる限りは、やりたくないことでも、やらなくちゃいけない。それはなんとなくわかっていたんだけど。なんでなんだろう。
「あなた勉強をやってる気がするんだけど、全然ダメね」
成績表を見る度、母は不思議そうにつぶやく。
「頑張ってはいるんだけどね……」
私なりに毎日コツコツ努力してきた。ただ、やり方が悪いのか要領が悪いのか、一向に点数が伸びない。テストの点数が悪いからと居残りをさせられることもあるし、算数の計算ができずに延々と泣いていたこともあった。
だから学校は嫌い、なはずだった。
六年生の頃、好きな人ができた。同じクラスのサッカー部の男の子で、席が隣になってから妙に気にはなっていた。
「教科書忘れたから見せてよ」
「ああ、うん」
いつも寝癖がついてるし、よく忘れ物をする。一見ぼうっとしているように見えるけど、ある日、グラウンドで一生懸命にボールを追いかける彼の姿を見て、「うそ、カッコいい」と一瞬で恋に落ちた。
次の日から私は放課後も教室に居続けた。ときどき彼がいるグラウンドを眺め、ひとり黙々とノートに物語を書き続ける。気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。ガランとした教室。あんなに学校が嫌いだったのに、誰もいなくなるまで私がいるなんてなんだか恥ずかしいな。
「まだいたのか」
教室のドアから先生が顔を出す。
「すみません、もう帰ります」
私はノートを手で隠して、急いで鞄にしまう。「じゃあ、また明日な」と先生が言って、私は「はい」と返事をした。
グラウンドに目をやると、すぐに彼を見つけられた。よし。
私は明日も、学校に来ようと思った。
私の次の記憶へ
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