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十歳


 転勤族の家庭で育ったから僕はどこへ転校しても誰にでも好かれること、というか嫌われないことを最優先に考えていた。勉強は出来すぎるまではいかないけどほどほどによい成績を取り、みんなの会話にもついていけるように細心の注意をはらった。

 問題児じゃなくちょっとだけ優等生でいたい。そんな気持ちが僕を縮こまらせていたかもしれない。

「おめえ何やってんだよ、バカ」

 新しく担任になった女の先生はとにかく強烈だった。授業中にふざけたり話を聞かなかったりする生徒がいると本気でボコボコに殴った。僕もまわりも息を殺してそのときが終わるのをじっと耐える。こんな担任、絶対いやだ。あるときまでそう思っていた。

 先生はとにかくパワフルで、曲がったことが大嫌いだった。当初、ヤンキー上がりだとクラスで噂になり、それはまんざらうそではなさそうだった。

「私、算数好きじゃないから今日はやーらない」

「今日はみんなでサッカーするか!」

 先生はよく興味がない教科をほっぽり出した。でも、その代わりに生徒がやりたいことに耳を傾け、一緒に絵を描いたり外に出掛けたり、ときには怖い話もしてくれた。これまでの担任は、全てを真面目に、と言わんばかりの教え方だったから、この破天荒とも言える授業に最初は戸惑いながらも次第に楽しくて仕方がなくなっていた。

「やりたいように生きようぜ」

「何がしたいのかちゃんと考えろよ」

 これが先生の乱暴だけど愛のある口癖だった。それまで僕は何になりたいかなんて考えたこともなかったけれど、当時没頭したアニメに感化され、いつの間にか「声優になりたい」と口にするようになった。先生はそれを知って「声優か。いいじゃん」と笑顔で褒めてくれた。

 でも、先生は僕たちが六年生になると担任から外れた。また、真面目がいちばん、みたいな担任になったけど普通の授業では物足りない自分がいた。

 優等生にならなきゃ。そう言っていた自分がバカらしくなるほど、知らないうちに僕の性格は真逆に変わっていた。

 そういえば成績も真逆になった。もちろん下がる一方で。







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