二十一歳
これでようやく行ける。
一年前、『世界一周なんて百万円で行ける』という一冊に出会った。どれだけ節約していかにいろんな国をまわるか。作者のある意味で賢く、ある意味でせこいハウツーが盛りだくさんで、海外旅行なんて行ったこともないのに僕はその型破りな姿に憧れを抱いた。熱しやすい性格の僕は一瞬にして世界一周が目標になり、すぐに大学を休学。バイトを掛け持ちして半年後に資金がたまった。
本の巻末に載る「これは持っておけ・持ち物リスト」をくまなく網羅し、英語もままならないまま僕の世界一周が始まった。
「問題はノリで乗り切れ」。本にはそうも書いてあった。僕はそれを真に受けて余計にトラブルになることもあったけど、僕の旅は八カ月間をもって無事に終わった。
久しぶりの日本。成田から渋谷に向かい、ハチ公前で地元の友人と待ち合わる。ボリビアでかけたパーマ姿が似合わないようで友人が苦笑した。
「で、世界一周してどうだったの?」
久しぶりの焼き肉。やっぱり日本食は世界一おいしい。
「まあ、普通だったかな。なんか普通」
「普通って、それが感想?」
確かに旅は刺激的だった。でも、どこにいても情報が手に入る環境は僕に予想外なことをあまり見せてはくれなかった。ほとんどの建物は想像通り。まあ、エベレストとオーロラは感動したけど。
友人はもっと話が盛り上がることを期待していたのだろう、少し不機嫌になり、ジョッキに並々と注がれたビールをグイッと飲み干す。
「じゃあ、行ってみたけどあんまりだったの?」
「うーん。そんなこともないよ。人のイメージは変わったかな」
「人の?」
「そう。“危険な国”って言われるところあるじゃん。そういう国にもいくつか行ったけど、そこで暮らす人もみんないい人なんだよ。どこ行っても、みんな親切でおせっかいで。それはネットにない情報だったかな」
「おお。そう、そういうの待ってた」
急に友人が身を乗り出す。
そういえば……。僕は、今も渡航中止が勧告される国で出会った長い髪の女の子を思い出した。
僕の次の記憶へ
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