二十二歳
「私たちはエリートです。くれぐれも足を引っ張らないように」
入社式。大ホールに社長のあいさつが響き渡る。どこで間違ったのかエリート集団に僕は足を踏み入れてしまったようだ。同期は超有名大学の出身者しかいない。最終面接で間髪入れずに言葉をまくし立てたことが功を奏したのか三流大学出身の僕は場違いなこの会社に受かった。
「それにしてもキモいな」
社長が「エリートだから」なんて堂々と言う会社ってどう考えても異常だろ。そう嘆いてみたものの誰も共感してくれそうにない。
ところが数カ月も経つと僕は会社の雰囲気に流され、自分がさも優れているかのように振る舞う人間になっていた。
「少し勉強してこい」
二年目の春、内示が出た。僕は取引先に出向するように言われた。下請けとも言える会社になぜ俺が行かなきゃいけないのか。そんなふてくされる気分を悟られないように「はい、頑張ります」と上司に言った。
予想通り新しい職場はとにかくつまらなかった。アットホームな会社と紹介されたが、ただただくだらない世間話をしてはゲラゲラ笑っているだけ。だからいいように使われるんだよ。そう思うほど、ここにいる自分が情けなくなる。
「部長、これ間違ってますよ」
僕は上司を上司とも思わず、まわりも全く信頼せず、早く元の場所に戻りたいとだけ考えていた。
「おい、ちょっと。これ」
ある日、部長に呼ばれた。僕の企画書が気になったという。
「いやいや、部長が間違ってますよ」
「何? 前から思ってたけど、なんだその口の利き方は。ちょっと来い」
別室に連れられた。部長は部屋に入るなり僕の企画書をテーブルに広げ、「よく見ろよ」と次々と企画の穴を指摘した。
「あっ、そこは」
言い訳も出ないほど僕は動揺していた。恥ずかしくて頭に血が上る。
「少しは見直したか。お前の思っていることはよくわかる。俺もあの会社にいたからな。まあ、これも勉強だな」
僕の社会人がようやく始まったような気がした。
僕の次の記憶へ
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